まるしん's diary

丸山伸一のブログです。日常の出来事(主にプライベート)、読書・映画評などを綴ります。

『私の男』(桜庭一樹)、『虚ろな十字架』(東野圭吾)、『閉鎖病棟』(帚木蓬生)~最近読んだ本2014.8~9月

 

 桜庭一樹『私の男』(文春文庫)読了。封切られた同名映画が話題になった。その映画に好きな女優二階堂ふみが出演している。さっそく文春文庫を手に取った。

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 1993年の奥尻地震で家族を亡くした9歳の「花」は、紋別に住む親戚の25歳の男、淳悟に引き取られ養女となる。「花」は25歳で結婚するまで、淳悟と禁断の愛を続ける。二人の関係に気づき、仲を断とうとした本家の「親父」を花が流氷に乗せて流し、東京に逃げた二人を追ってきた道警の刑事を今度は淳悟が殺す。二つの殺人は結局表ざたになることはない。

 時間を追って言えばこうなのだが、小説は、2008年6月の花の結婚式の前後から始まる。花、淳悟、花の婚約者ら登場人物の何人かが1人称で語りながら過去に遡っていく構成。ややトリッキーな手法だが、読み進むうちにだんだんに前の章の疑問が解け、ストーリーにも(遡及的な)連続性が出てくる。最後は1993年、奥尻地震の年に戻るのだ。

作者は「禁断の愛」を肯定? 否定?

 はっきりとは書かれていないが、二人は血のつながった、実の親子のようだ。淳悟が中学生時代、預けれられていた親戚宅の母親と密通してできたのが花らしい。出生も異様なら、その父娘が愛欲に溺れるのも異様。それを「本質の愛」と言う人もいるだろう(桜庭も?)が、社会通念上は許されない、近親相姦である。
 解説者の北上次郎も「愛に飢えた親子が超えた禁忌を圧倒的な筆力で描く」と書く。「禁忌」と言いながら、実は桜庭の視点を追認している。だが、「圧倒的筆力」の評価については首肯できない。ならば一方の「映画力」はどの程度か、観なくてはと思いつつ早3か月。
モスクワ映画祭最優秀作品賞&男優賞をと受賞。
 ちなみに
桜庭一樹は、鳥取県米子市出身の女性作家。ご主人は吉本興業の漫才師。ゲームのストーリーや、漫画の原作も手掛ける1971年生まれ。


当たり外れが大きい東野作品~虚ろな十字架

 2冊目は超売れっ子ミステリーライター、東野圭吾の『虚ろな十字架』(光文社)。書き下ろしの単行本だそうで。これまでも東野作品は、傑作と駄作の差が歴然としていると感じていたが、この作品は、ボク的には決定的駄作のひとつだ。登場人物の内面の掘り下げが浅く、一つ一つの描写も薄っぺらいため感情移入ができずじまい。しばしば「あれ、この人だれだっけ」と、前に出てきた人物であることを忘れる。セリフもベタかつ稚拙で、構成も読者に混乱をきたす。

 そして、テーマは「死刑」だ。帯には<娘を殺されたら、あなたは犯人に何を望みますか。 死刑は無力だ><別れた妻が殺された。もし、あのとき離婚していなければ、私はまた遺族になるところだった>とある。でも、読んでみると、どちらのキャッチも本質を突いていない。編集者の努力も足りない。こんな作品も、いずれは映画化されるのだろうか。

 

精神科病棟患者を優しく描き、感涙を誘う結末『閉鎖病棟


 これは期待していた以上に、大満足の作品だった。

 九州の、とある精神科病棟。重い過去を引きずり、家族や世間から疎まれ遠ざけられながらも、明るく生きようとする患者たちの群像劇である。著者・帚木蓬生は現役の精神科医で、患者の視点で病院の内部を描くことに成功している。後ろ解説を書いた逢坂剛に言わせれば、「精神科病院の実態をこれほど公正に描き切った小説は初めてだと思う。公正と言うのは、差別的視点がないことだけでなく、わざとらしい無益な同情、憐憫もないことを意味する」という部分だろう。

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 ある日、患者たちの日常を破る殺人事件が起きる。容疑者は過去に死刑執行(絞首刑)を生き残った車椅子の「秀丸さん」、被害者は病院内で乱暴ろうぜきの限りを尽くす元暴力団員。どちらも患者である。なぜ秀丸さんは犯行に及んだのか。主人公のチュウさんが、秀丸さんを想い、法廷で証言する終章は涙なくして読めない。そうだ、ここに登場する患者たちこそ自らの感情に素直に、社会を正常に生きている、それにくらべ自分は…。そんなことに気付かせてくれる。平成6年の作品。山本周五郎賞受賞作。