まるしん's diary

丸山伸一のブログです。日常の出来事(主にプライベート)、読書・映画評などを綴ります。

『櫛挽道守』(木内昇、集英社)~2014.3.1

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  木内昇の『櫛挽道守(くしひきちもり)』を読みました。直木賞作家(2011年『漂砂のうたう』)だけあって、リズムの良い、拍子をとるような、それでいて抑え気味な文章の運びは見事、斜め読みなどではなく、真摯にじっくりと読み干した1冊です。

 時代は黒船が来航し、攘夷・佐幕を争い桜田門外の変が起きる幕末、舞台はわが信州、木曽の藪原宿です。奈良井、宮ノ越贄川などの地名、「そだがぁ。ならよがったで」「んだども、大変ではねぇのが」「無理がたたったずら。しっかりしてくれねばよ」といった方言、「お六櫛」「みねばり」といった名称が頻繁に登場し、信州人の郷愁がかき立てられます。

 主人公は、お六櫛(おろくぐし)職人である父の背中を追いつつ、跡目を継ぎたいと修業に励む長女・登勢。その登勢と性が合わず村の外に幸せを求めた妹、才がありながら早世してしまう弟、父に弟子入りし、やがては登勢の夫となる男……、家族とはなんなのか。女の幸せはどこにあるのか、若い登勢は悩みます。不器用、しかしひたむきな彼女が懸命に歩いた道の先に、深く静かな感動が広がる--なるほど、そんな小説です。

 今夏、帰省したら、まっさきに木曽を訪ね、お六櫛を手に取ってみたくなりました。