まるしん's diary

丸山伸一のブログです。日常の出来事(主にプライベート)、読書・映画評などを綴ります。

Book Review『火怨(上・下)』(高橋克彦、講談社)

 今回はBook Reviewであると同時にTravel Reportでもあります。

 

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 『火怨(かえん)』は、「泣けて泣けてたまらない小説だ」と友人から言われ、アマゾンで中古単行本を買って(上・下で800円)読み始めました。読了(2013.6月末)後の感想を言うと、大して泣けなかったけれど、期待をはるかに上回る面白さの古代歴史小説でした。というのも、8~9世紀、蝦夷(えみし)征伐の勝者(=朝廷軍、征夷大将軍坂上田村麻呂ら)ではなく、敗者(=蝦夷軍の部族長ら)から見た戦(いくさ)の歴史が、まさに「裏の裏を読む」ような戦記物、わくわくどきどきの冒険タッチで描かれているからです。主人公の阿弖流為アテルイ)は、参謀の母礼(モレ)とともに優れた知略家、戦術家で、二人が中心となって、2万、5万、10万と限りなく数を増やしていく敵・朝廷軍の攻撃を事前の見事な読み、準備、展開で次々かわしていく様は、とても爽快です。

 

 結局、阿弖流為は、切りのない戦に終止符を打ち、蝦夷の人々が未来永劫平和に暮らせるように、自らを悪者に仕立て、母礼とともに朝廷軍に投降します。その心根を理解している坂上田村麻呂は、朝廷に阿弖流為らを処刑せず陸奥に帰すよう嘆願しますが、突っぱねられ、阿弖流為と母礼は京都・河内で公開処刑(地中に体を埋められ、首をのこぎりで切り落とす)されます。その首を前に田村麻呂が「俺もそなたらの側に生まれてみたかったな」とつぶやくシーンは、確かに涙なくしては読めません。

 

 「もっと阿弖流為を知りたい」。歴史フリークの私ゆえ、そんな気分になり、あれこれネットで調べました。だいぶ前から、阿弖流為を復権させ英雄として再認識してもらい、阿弖流為を岩手の観光資源の一つにしようという運動が地元で始められています。2002年の「阿弖流為没後1200年」を前後に、その動きは活発になっているようです。高橋の『火怨』は演劇にもなっているし、NHKも大沢たかお主演でドラマ化しました(観てない…orz)。

 

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 ひょんなことから先週(7月5日、6日)、仕事で岩手を旅することになり、阿弖流為ゆかりの胆沢(いさわ)城址がある奥州市水沢区に立ち寄ってみることにしました。ここには奥州市埋蔵文化財調査センター(上の写真)があります。展示物を見て、ビデオを観て、史料を読みましたが、まだまだ阿弖流為については分からないことだらけです。分からないことが多いほど、歴史ロマンは人を惹きつけるのでしょう。

 

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 (↑ センターの展示物から。北上川を舞台に、阿弖流為率いる蝦夷軍の騎馬兵、歩兵(右)が、朝廷軍(左)を返り討ちにしている)

 

 斬首された阿弖流為と母礼をまつった石碑が、京都・清水寺の一角にあるそうです。次はそこへ行ってみたい。そう思うほどハマった作品でした。

 

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 (↑ センターの展示物から。左の写真が阿弖流為らしき人物の想像図。中央は坂上田村麻呂伝説に出てくる「悪路王」。蝦夷の首長の一人だが、阿弖流為との関係は不明。)