まるしん's diary

丸山伸一のブログです。日常の出来事(主にプライベート)、読書・映画評などを綴ります。

『巨人V9とその時代』(山室寛之著、中央公論新社)~最近読んだ本

 2014年11月13日付「スポーツ報知」に、わが師匠の近著の書評を書かせてもらいました。(以下の記事PDFが不鮮明なので下段にテキスト掲示します)

プロ野球黄金期」のクロニクル

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 著者・山室寛之氏は、ボクが読売新聞社会部の駆け出し記者時代に、警視庁記者クラブキャップを務めていた。若い頃から敏腕記者として社の内外で一目置かれ、警視庁捜査二課担当時代は汚職事件で、建設省担当時代は手抜き工事事件などで一面トップの特ダネを連発した。後に社会部長。ボクにとってはとにかく「恐い」「近寄りがたい」先輩だったが、“コイツ、いじめ甲斐がある”と思って下さったか、今日に至るまで、様々な場面でご指導いただいている。

 

「目先の5円玉を拾うな」が口癖

 山室氏はその後、読売巨人軍の球団代表、読売新聞西部本社代表、読売ゴルフ(大阪)社長などを歴任し退職、もともと野球少年だった(九州大野球部)こと、球団代表だった経験を生かし、今はフリーのプロ野球ジャーナリストをしている。
 長い付き合いの中で、山室氏から何度も聞かされたセリフが「目の前の5円玉を拾うな」だった。曰く、社会部記者であれば、物事の上っ面をなぜただけの記事なんかで満足するな、真相・深層にぶち当たるまで懸命の努力をせよ、やがて財宝・金塊を発見して世の中を仰天させるくらいの気概が必要なのだ、という理屈だった。 

 今、ボクはスポーツ紙の編集局長として、取材とはまさにその通りだと、様々な場面で感じる日々である。

 

【テキスト再掲】

 筆者の山室氏は、昭和34年(1959年)の天覧試合から49年に長嶋引退までの16年間を「昭和のプロ野球黄金期」と位置付ける。その中核を担ったのが40年に始まる巨人の9年連続日本一(V9)だ。ON(王、長嶋)に挑む江夏、村山ら一流投手の闘争心、川上監督率いる巨人の勝利への執念は、高度経済成長期の熱気と相まって、野球を国民的スポーツに押し上げた。この間の、野球界の年ごとの動きを約300人の選手の通算記録を付して振り返ったのが本書である。

 といっても、単なる記録集ではない。当時の新聞や雑誌を丹念に調べ、選手OBや元球団幹部たち、往年の実況アナにまで取材を重ねた。山室氏が読売新聞の社会部記者だったころの取材メモからとおぼしき場面も出てくる。あの時代を再現するドキュメンタリーの趣に、古い野球ファンなら球場の興奮と感涙を思い出すことだろう。

 「黄金期とV9は私の感覚では現代史だが、天覧試合から30年も後に生まれた若い選手、ファンには太古の歴史。『誰が読者か』悩み続けた」と氏は言う。プロとアマの長い不毛の対立、球団経営の迷走など苦い歴史も正面から取り上げたのは、「その教訓を糧に、不朽の国技・野球をさらに発展させてほしい」と今の読者に願うからだ。

真相・深層にぶち当たるまで…

 余談だが、評者は山室氏が社会部長時代の駆け出し記者。「眼前の5円玉を拾うな」が口癖で、少々の特ダネを書いて悦に入っていようものなら、「5円玉で終わりか!」と怒声が飛んできた。真相、深層にぶち当たるまで取材の手を緩めるな、とたたきこまれた。

 本書が書店に並んで間もなく、師(と言ってしまうが、正確には氏)からメールが来た。「次の取材旅行に出ます。上手くいけば5円玉ではないものが拾えるかもしれません」。フリーとなった今も、“敏腕記者”の習性は色あせていない。

   (評者=報知新聞社編集局長 丸山伸一)